中学受験 よく出る本・作家2018 + 出題のポイント

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2017.08.03 中学受験において、国語の小説文での得点は、大きく合否結果を左右します。心情や人物像の読み取り、人物関係や展開の変化など、複数の観点から客観的に判断して答えを導き出す数々の出題。大人が見ても趣向が凝らされていて、思わず唸ってしまうような良問ばかりです。

今回は、中学受験でよく出る作家を紹介しながら、数多くの受験指導をしてきている視点から、読み方や出題ポイントなどを含めて記事にしました。今回もボリュームたっぷりです。じっくりお読みください。

一つお伝えしておきたいのが、「出題されるから読む」のでは意味がありません。巷には頻出作品ランキングなどもありますが、その1位から読んでいっても無駄です。中学受験に役立てようと思うのであれば、なぜ出題されるのか、なぜ中学校はその小説を選んだのか、出題者の意図、学校の想いを念頭に置きながら読む必要があります。

では、どんな出題があるのか。人物の心情を問う問題は当然のように各校で出題されますが、それ以外にも例えば、難関中学では次のような問題も出されます。

"「『ありがとう』なんて呼吸のようなものだ」とありますが、どういうことですか"

"「『会う』というよりも、『見かける』というほうがいいかもしれない」とありますが、「会う」と「見かける」という言葉にはどのような意味の違いがありますか"

いかがでしょうか。非常に難易度が高く、抽象的な問題です。文中からヒントを見つけ、自分で論理的に構成し、これまで生きてきた中で獲得した視点や知識を応用しながら、答えを一つにまとめていくことを求められています。

「言い換え」を的確に行える力が必要です。因果関係を整理して、抽象を具体化し、比較することで違いを説明できる能力が求められています。論理性がなければ、読解はただの感想です。語彙力を高め、読むスピードを上げ、物語の「パターン」を知るために、読書は有効です。良い本をたくさん読みましょう。量と同時に質も重要です。

前置きが長くなりました。定番中の定番、「重松清」から近年注目の「朝井リョウ」、そして一部の難関校で根強い人気を誇る一押しの「小川洋子」までご紹介いたします。気に入った作家の作品を片っ端から読むのも良い読み方です。「作品ベース」で考えるのではなく、「作者ベース」で読んでいくのも面白いと思います。

重松清 言わずと知れた中学受験のド定番、重松清です。小学生主人公の物語も多く、低学年であれば小学校3年生から大学生や大人まで楽しめる作家です。登場人物が「どこにでもいる誰か」であることが多く、感情移入がしやすいという特徴があります。舞台設定が細かくてリアル、全体に平易な言葉で書かれている読みやすい作品が多数あります。すべての重松清作品が小学生向けかというと、そうではないので、少し注意が必要です。「疾走」「かっぽん屋」は避けたほうが良いでしょう。

どう読むか

・まわりくどく表現されることが多いので、真意をつかむように読む ・「これ、どういうことだろう?」と思った時にそのまま流さずに、人物の気持ちに焦点を当てて考えてみるようにする ・情景描写に気持ちを託す表現があるため、その情景が持つ意味合いに思いを馳せてみる ・辛いことがあっても、辛いままでは終わらない。最後は一筋の光を見せて終わる。「前向きラスト」であることを期待して読む

出題ポイント

・間接表現の読み取り ・情景描写に隠された意図 ・人物像

出題校

・聖光学院 ・桜蔭 ・筑波大附属 ・慶応普通部 ・慶応湘南藤沢 など

おすすめ作品

椰月美智子

落ち着いたストーリー展開と、的確で癖のない文章表現を操る椰月美智子もよく出題されます。心情描写や会話文に意図が込められていることが多く、しかもその意図が割とはっきりしているため、問題としても出題しやすい文章となっています。登場人物のキャラがしっかりしているので、自分自身とは異なる性格の人の視点を獲得するのに最適です。

どう読むか

・端的な描写やセリフに込められた想いを丁寧に読んでいく ・主人公の負の要素、精神的な弱さや至らなさなどを優しく見守るように読む ・情景描写によって物語が展開していく様を感じ取る ・美しい日本語の表現を体感しながら、ストーリーを丁寧に追っていく

出題ポイント

・セリフに込められた心情 ・人物同士の関係性 ・小説文中の比喩表現の意味

出題校

・浅野 ・筑波大附属 ・ラサール ・慶応湘南藤沢 ・海城 など

おすすめ作品

森絵都

物語の設定が少し凝っていて、ストーリー展開も豊かで面白い作品が多いのが森絵都です。体言止めと口語文のバランスが心地よく、登場人物の描き分けに秀逸さが見られます。特に2015年に刊行された「クラスメイツ」は、中学1年生の24人の日常について描かれていて、中学受験で頻出しています。リズムよく読み進めながらも、人物の心情読解をしていくには森絵都がおすすめです。

どう読むか

・性格や立場、価値観など人物の描き分けの巧みさに注目 ・設定を素早く読みとり、展開を予想しながら読む ・物語が動き出す伏線ときっかけに気を配りながら読み進めていく

出題ポイント

・人物像を問う ・表現の工夫について ・間接表現やセリフに隠された想い

出題校

・渋谷教育学園幕張 ・豊島岡女子 ・浅野 ・鎌倉女学院 ・横浜共立 など

おすすめ作品

瀬尾まいこ

心情表現の巧みさと温かな家族の描写が素晴らしく、セリフの中にほとばしる人間味あふれる登場人物たちが秀逸な瀬尾まいこ。読む人の心に届ける豊かな文章表現が特徴です。ストーリーの起承転結もさることながら、終盤一気に畳み掛けるように人物関係と心情が移り変わっていくところも圧巻です。温かさと豊かさを見事に一冊の本に閉じ込める技巧をお楽しみください。

どう読むか

・個性的な登場人物の場面ごと、時間ごとの心情の移り変わり ・起承転結を意識してヤマ場の盛り上がりを知る ・当たり前の心の動きを、豊かに巧みに表現する心情描写

出題ポイント

・セリフから読み取れる心情 ・個性的な人物同士の関係性 ・ヤマ場で激しく移り変わる心情の変化

出題校

・筑波大附属 ・公文国際学園 ・芝 ・麻布 など

おすすめ作品

辻村深月 展開のテンポの良さと短編の歯切れの良さ、視点の若さが魅力の辻村深月。登場人物の年齢が比較的低いものも多く、中学受験でも出題されるようになりました。終盤のどんでん返しにも注目です。文句なしの名作も多数ありますが、一部の作品は少しサブカル的要素があったり、暴力的表現を含んだりしているので、選ぶ時は注意が必要です。中学受験向けとしては「家族シアター」「島はぼくらと」が圧倒的に良いですね。また、2018年度本屋大賞に選ばれた「かがみの孤城」も主人公が中学一年生ということで、入試に出題される可能性は十分。チェックしておく価値がありそうです。

どう読むか

・テンポの速い展開の中で心情や状況、人物同士の関係性の変化を捉える ・主人公の視点の変化や成長を感じ取りながら読む ・クライマックスに向けての盛り上がりを楽しむ

出題ポイント

・特徴ある描写で表現された人物像の読み取り ・キレのある会話の中に隠された心情 ・揺れ動く心情の変化ときっかけ

出題校

・麻布 ・灘 ・慶応湘南藤沢 ・洗足学園 など

おすすめ作品

宮下奈都

「羊と鋼の森」で一躍脚光を浴びた宮下奈都は、日常の切り取り方に卓抜したものがあり、当たり前の毎日を嫌味のない描写によって彩ることのできる作家です。淡々とした会話が多く、会話文の短さが特徴的ですが、大きくゆったりと流れていくストーリーに身を任せるように読んでいくと楽しめます。全体にくどさがなく、さっぱりとした読み口なのも好感が持てますね。

どう読むか

・くど過ぎないスタイリッシュな情景描写から展開の変化を読み取る ・日常の些細な変化から人物関係や心情の移り変わりを予測する ・端的なセリフに凝縮された深く濃い思いを読み解く

出題ポイント

・人物像についての問題 ・移り変わる心情 ・登場人物の気づき

出題校

・東洋英和 ・城北 ・栄東 ・豊島岡 など

おすすめ作品

朝井リョウ

「桐島、部活やめるってよ」で鮮烈デビューを果たした新進気鋭の本格派、朝井リョウ。高いレベルで文章が書ける最も若い作家と言えます。みずみずしい筆致と、鋭すぎる人間観察による人物描写、そしてラストをきっちりとまとめてくるストーリーに対するこだわり、どれを取っても次代を担う小説家となることは請け合いです。その期待感も相まってか、中学受験でも出題する学校が増えています。

どう読むか

・まさに現代を生きる子どもたちと目線を合わせた人物描写と心理描写 ・ややありきたりの平易な心情表現から登場人物の気持ちを的確に読む ・きっちりと作者メッセージ(主題)が残されて終わるラストシーンに注目

出題ポイント

・小学生なりの感性で登場人物たちの気持ちを捉えられているか ・エピソードから判断して、人物像を把握できるか ・場面の切り替わり、視点の切り替わりを読めるか

出題校

・早稲田実業 ・東大寺学園 ・海城 ・法政第二

おすすめ作品

小川洋子

今回挙げた作家の中で最も文学的な作品を書くのが小川洋子。平明で分かり易い心情表現ではなく、遠回りでやや難しめの言葉を使いながら、少し不思議な出来事についての物語を紡ぎます。浅野や渋谷教育学園渋谷、桜蔭などの国語にこだわりがある学校が入試問題として採用しており、本格的な国語力が問われることになります。小説を読み慣れていない人にとっては、読解がかなり厳しい作家となるでしょう。

どう読むか

・語彙力を高めるために知らない言葉や表現を調べながら読む ・曖昧な表現の意味をよく考え、次につながる伏線ではないかと予想する ・少し不思議な世界観を楽しみながら、表現の美しさを知る

出題ポイント

・人物とその過去や現在に投影されている背景 ・難易度の高い語彙(和語や熟語)の意味 ・抽象的な情景描写が表している状況説明 ・前後関係をよく捉えながら考えなければならない間接的な心情描写

出題校

・女子学院 ・渋谷教育学園渋谷 ・筑波大附属 ・浅野 ・早稲田実業 など

おすすめ作品

恩田陸

「蜜蜂と遠雷」で本屋大賞と直木賞をダブル受賞し、2017年注目の作家となった恩田陸。もとより豊かな表現力と展開力、そして少年少女の登場人物の描き方には定評があった著者ですが、入試問題からは少し離れたところにいたように思います。「蜜蜂と遠雷」だけでなく、他の作品も再評価され、2018年度入試以降、数多く出題されてくるのではないかと予想します。

どう読むか

・登場人物の心情が長めに語られるので、丁寧に読み解いていく ・人物の関係性の変化がポイント。変化の過程を追っていく ・ラストが投げっぱなしになる傾向があるので、続きストーリーを予想しながら楽しむ

出題ポイント

・長めの心情表現の読み取り ・場面展開の理解 ・比喩や情景描写が意味するところを説明する

おすすめ作品

おわりに

小学生は自己中心的で未熟です。それこそが輝きであり眩さであり魅力ですが、中学に入ると人間関係の中で自己を捉え直し、再発見していくということが必要になってきます。そのための土台作りとして国語の受験勉強があるのでしょう。

私立中学校としては、小説文読解の問題を通して自己中心的になりがちな小学生が「他者視点」を持てているか、人の気持ちを多面的に捉えられているか、言葉から場面を思い浮かべる想像力があるか、といったような表面的ではない「大人度」を試してきます。出題者の意図を汲みながら、幅広い知識と教養そして読解力・想像力・論理性を持って入試に立ち向かうことが必要です。

小説を読むこと=国語力の向上ではありません。何を読むか、どう読むかが肝要です。もちろん、これらの作家の作品は楽しんで読むことが前提だと思いますが、受験を意識するのであれば、問題につながるような読み方をしたり、読後に親子で話し合ったりしてみると良いのではないでしょうか。最後までお読みいただきありがとうございました。 2019年入試に向けての最新版はこちら。

中学受験 よく出る本・作家2018 + 出題のポイント53
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